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コラム:シマウマは考える
コラム:シマウマは考える
シマウマは考える Vol.7
危中機
「人間といくつかの霊長類は生まれつきヘビを他のものより速く見つけ出す」という実験結果が最近報告された(1)。3~4歳の子供と大人74人に花とヘビが混じる白黒写真を見せると、ヘビの写真だけは大人も子供も早く見つけ出した。また、ヘビが休んでいる写真より,鎌首を持ち上げ攻撃的な写真の方にわずかだが速く反応するという。実際にヘビを見たことがない子供も同じ反応で、これは“ヘビを見つけると怖がるのは本能”ではと、研究者は推測している。我々の先祖も狩猟や採集のとき、毒ヘビを恐れたり、あの姿におののいたのだろうか?

実際に使われた写真(1)
そのヘビは各国の神話や聖書に現れ、聖書に最初に出てくる動物であるという。旧約聖書『創世記』では、神は、エデンの園にある“善悪の知識の木”の実だけは食べてはならないと命令していた。男性のアダムに続いてイブ(女性)が創造されると、ヘビがイブに近づいてその善悪の知識の木の実を食べるようそそのかす。イブはその実を食べた後、アダムにもそれを勧めた。神は怒り、ヘビは手足を取られ腹這いの生物となった。この姿ではほかの動物と戦うことができない。生きる物としては最大の危機である。
“Crisis-opportunity”や“危中機”という言葉を時折見かける。“危機の中に機会がある”、“危機をチャンスに変える”というのである。なるほどその通りと理解しても、いざ実行に移すとなると、これまたこれほど難しいことはない。手足のなくなったヘビは、水中にひそみ獲物を待ち伏せし、高い木に登り鳥の巣を襲い、洞窟の天井に張り付いてコウモリを絞め殺す。体全体が地面についているので、顎にある振動センサーはネズミの足音まで感知し、とぐろを巻いて勢いをためて一気に飛び掛かる。獲物の胸に巻き付いて、心臓が止まるまで締め付ける。襲われれば、死にマネで相手をだまし、時に毒を飛ばす。手足はなくともいつのまにか究極のハンターと言われるようになった(2)。

ミシュランガイドで有名な東京高尾山
山頂近くにいるヤマガラシがカエルを捕まえた
映画「13デイズ」では、当時のロシアがアメリカの喉元のキューバに核ミサイル基地を建設しようとした“キューバ危機”を13日間で解決する様子を描いている。精鋭を集めた緊急チームで直接の攻撃を避けた“海上封鎖”というアイデアを生み出し、ケネディ大統領は緊急放送で国民に呼びかけ、一方水面下で外交交渉を続ける。「核の危機」は「核なき世界」の実現への転換でもあった。
月面着陸を目指すアポロ13号で事故が起きたとき、NASAの管制センターが直ちにミッションを中断し、人命救助へと全面的に方針転換した。危機的状況の中、乗組員を無事に地球に戻すという目標に向かい、さまざまなアイデアが次から次へと出され、苦闘の末に無事に地上へと帰還させる模様が映画「アポロ13」で描かれ、これも危機の対応を学ぶことが多い映画である。

アメリカ、フロリダ州ケープカナベラルのケネディスペースセンターの発射台。
アメリカのケネディ大統領は、1961年「1960年代末までに人類を月に送り生還させよう」と呼びかけた。
実際企業活動では、予想もしないプロジェクトの失敗や突然の顧客の倒産などの危機が突然現れ、さらに事業の成長が停まり、業界の構造変化がおこり、いつの間にか強敵が出現し、知らぬ間にブランドの毀損など、いくつもの大きな市場の変化の危機に直面する。個人の生活でも危機は訪れる。愛する人の病気や死、事業の失敗、失業といった私生活上の危機は否応なしに訪れる。危機は、金、時間、労力だけでなく、自信や第三者からの評価も奪い取っていく。
しかし一方危機は、“本当に大切なこと”を知らせてくれる。さらに優柔不断な人にも“否応なしの選択”を迫る。このおかげで過去のコミットメントを無効にできすべてを白紙にできる。“本当に大切なこと”に気付き、それを知り、さらに関連する人たちにも認識されることで、過去にしばられることなく、否応なしであったとしても新たな方向へ向かうことができる。個人では危機となって失敗しても多くの長所が損なわれるわけでもないことに自分や周囲の人々が気づき、次のアイデアを考え、新たな挑戦を受けて立つことができる。
聖書では、ヘビはアダムとイブを惑わし呪われた動物として書かれているが、一方その聖書では「いいですか。わたしが、あなたがたを遣わすのは、狼の中に羊を送り出すようなものです。ですから、蛇のように賢く、鳩のようにすなおでありなさい。」(3)と伝え、ヘビは注意深く鋭敏であることの象徴でもある。日本では、「じゃ蛇はすん寸にして人を呑む」ということわざもある。蛇はわずか一寸ほどのものでも、人を呑むほどの気迫がある意味から、優れた人は幼少のときから常人とは違ったところがあるという例えに使われる。
アニマル・シンキングでは、ヘビは手足を取られたことをプラスに考え、“本当に大切なこと”を認識し“新たな選択肢”を考える「危機をプラスに変える戦略家」として現れる。さあ、ヘビににらまれたら、あなたはどうしますか?

2010年12月20日
バックラット
(1):Prosone.journal.pone.0015122、Nobuo Masataka他。
(2):「動物園を楽しむ99の謎」森由民、二見書房
(3):「聖書マタイ伝10章16節」





