Column
コラム:シマウマは考える

シマウマは考える Vol.9

これは“よい目標”ですか?

 「この目標は“よい目標”ですか?」。目標管理制度(1)を導入し運用を始めた企業の人事担当者から、こんなことを尋ねられた。目標管理制度は目標の設定が鍵になるので、目標の出来に関して第三者の専門家の意見も参考にしたいのであろう。

 一般的に「よい目標とはSMART(スマート)な目標」と言われている。Specific(具体的)、Miserable(測定可能)、Aligned(上位目標との連携が取れている)、Realistic(現実的)、Time-Bound(期限が設定されている)の頭をとって「SMART」である。第三者であっても、全社目標との整合性がとれているか、出来る限り数値化されているかなど、「SMART」の観点からその目標の良し悪しをチェックすることはできる。しかし、目標に取組む当事者でなければ、本当に“よい目標”か否か、本質的な部分はわからない。

 「学習する組織」の専門家ピーター・M・センゲ(2)は、「人々が真に成し遂げたいと思う目標への牽引力がなければ、現状を支持する力のほうが圧倒的となる。」と述べている。特に変革が求められる時には、目標には「牽引力」が必要なのだ。そして目標への「牽引力」を生み出すのは、多くの人々が本当の意味でコミットする「共有ビジョン」だと言う。「共有ビジョン」が人々のエネルギーやアイデアを引き出し、共通の目標へと具体化し、その目標によってつながり団結する。「共有ビジョンは、彼ら自身の個人のビジョンを反映している。」からこそ、そのビジョンに共鳴し、ビジョン実現への具体策である目標を達成しようという強い思いが生まれる。

 旭山動物園は、1990年代半ばの閉園の危機から、10年後には入園者数が二倍に増え「日本一の動物園」になり、「奇跡の動物園」として注目を浴びている。その奇跡を生み出すきっかけになったのが、「動物園とは何なのか、何のために存在するのか」と存在意義から問い直し、「命を伝える動物園」にしようと、動物が動物らしく生きている姿をありのままに伝える行動展示を始めたことだった。「命を伝える動物園」という共有ビジョンは、動物園の飼育員、職員の理想の動物園像のイメージをふくらまし、様々なアイデアを生んだ。そして、市議会や市民の共感を得て予算も獲得した。

 これが、共有ビジョンがないまま「入園者数を3年後に1.2倍にする」という目標が設定されていたらどうなったであろう。収支を分析し、動物園が存続していくために必要な入園者数をはじき出し、そして解決すべき課題を列挙する。そうすれば、評価検証もしやすい「SMART」な目標が設定できるであろう。しかし、多くの人の共感を呼び、様々なアイデアが生まれ、人々のエネルギーを引き出すことは出来なかったのではないだろうか?

 アニマル・シンキングの課題解決のステップではまず、「○○を解決したい」「○○を開発したい」「○○を達成したい」という各自の課題をあげる。ワークショップに参加した運送会社の研修担当者がまずあげた課題が「事故ゼロにしたい。事故ゼロになるような研修を企画したい」であった。次のステップでは他の参加者とアニマル・カードの力を借りながら、課題に関連する様々な事柄を列挙した。

シマウマは考えるドライバー、トラック、研修場所、研修会社、参加者、社員、事故原因、倉庫、道路、勤務体制、意識、事例、ルート、・・・

 たくさんの関連する事柄の中に「家族」があった。研修担当者は、その「家族」というキーワードが心に引っ掛かり、「本当に達成したいことは何なのか?」を考えるステップでじっくりと考えた。そして「ドライバーもその家族も事故の心配をせず安心して働ける会社にしたい。」が本当に達成したいことだと気づいたのだ。個人のビジョンと目標が結び付いた瞬間である。

 本当に良い目標は、共有ビジョンがあって、そこから導き出された「牽引力」のある目標である。いくら「SMART」な目標であっても、「個人のビジョン」と結び付かなければ、困難な課題を乗り越えるだけのアイデアやエネルギーは生まれない。「これは“よい目標”ですか?」という問いは、目標に取り組む本人しか答えられないのである。

2011年2月24日
カンガ・え・ルー

(1):目標管理制度とは、組織(会社、部門、課、グループなど)の目標を設定し、その組織目標を達成するために、組織の構成員(社員)が個人目標を設定し、その達成にむけ進捗状況を管理し、達成度を評価する制度。評価制度の一つとして、導入している企業も多い。
(2):ラーニング・オーガニゼーションの構築を方法論としてまとめた第一人者。参照は、『最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か』ピーター・M・センゲ 守部信行訳、徳間書店