Column
コラム:シマウマは考える

シマウマは考える Vol.10

僕の役割

☆“ヒト”の集団には“共有したビジョンから導きだした目標が必要”と“ヒト”の組織開発の専門家は説明する。共有できる目標をもつことにより“ヒト”の集団は牽引され、困難な課題を乗り越えると言うのである(1)

☆「アリたちは暑い夏、冬に向けて食料をためるために働き続け、キリギリスは怠け者で、アリたちが一生懸命蓄えをため込むのをよそに、歌を歌って過ごす。寒い季節が訪れると、キリギリスはアリたちに食料を分けてほしいと乞う。アリたちはそれを拒み、キリギリスは飢える。」と人間は教訓を垂れているが、僕たちアリの人生はちょっと違う。

☆アメリカのスタンフォード大学のデボラ・ゴードンさんという僕たちの研究者は僕たちを長いこと観察して、「アリが何かしているのを見ると、なんて無能なんだろうとびっくりする。私たちが一番良いと思う方法ではやらないし、何かを長い期間覚えておくこともできない。そもそも成功しようがしまいが気にしていないようにも見える」(2)と言っている。

☆実際僕たちは、難しいことはやらない。僕たちのことを60年も観察している久保田先生は、「アリが忙しそうにしているのは育ち盛りの子供達がたくさんいて、餌が取り込まれたときとか、アリの家を外敵が襲ってきた場合で、それ以外はおたがい寄り合ってじっとしている」(3)と言っている。仕事がないと落ち着かないという仕事中毒の人間に、僕たちアリはとうていかなわない。

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☆僕たち働きアリは、餌を探す仕事に行くとき腹からフェロモンを出して、仲間についてこいと伝える。台所に砂糖を置いて貰うと、誰かが砂糖を見つけ持って帰る。そして砂糖を持ち帰った道には、往復ともフェロモンを置いていくので、見つけられないでいた仕事仲間はフェロモンの濃さから、この道は砂糖に行く道と分かる。こうして働き仲間のひとりふたりとこの道を往復するので、次第にフェロモンは濃くなって、成功への道が造られる。

☆だから、僕が何かをするとそれが仲間に伝わり、次に彼がまた他の仲間に影響を与え、こうやって他の仲間に波及していくのが僕たちの仕組みだ。「アリは自分のしたことを分かっていない」とヒトは言うが、その通りだ。でも、僕のしたことは繋がって行き、僕達の集団“コロニー”全体では変化に繋がるのだ。 

☆こうした僕たちの行動を研究したヒトは、僕たち生き物集団がリーダーからの特別の指示もないのに問題を解決していく過程を『自己組織化』と呼んで研究しているらしい。僕のフェロモンを真似して“バーチャル・フェロモン”というソフトウェアまで作って、それをコンピューターの上で動かして僕たちの行動を真似て、電話交換の速度を速める、乗り物の座席指定のシステムに利用するなどと人間社会の問題を解決しようとしている。

☆アニマル・シンキングにも、僕たちは出演している。彼らは、僕のことを「アリの戦略は、役割を決めて強くなる」と言っている。そうなのだ、「アリは賢くないが、アリのコロニー集団は賢い」とゴードンさんも認めている。

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2011年3月23日
パックラット

(1):「これは“よい目標”ですか?」カンガ・え・ルー、シマウマは考えるVol.9
(2):「群れのルール」ピーター・ミラー、東洋経済新報社。
(3):「アリの生態ふしぎの見聞録」久保田政雄、技術評論社。